「組織の構成要素は人ではない! 」


 渡邉 信光
2012/4/25

 「人は組織の構成要素である。この問いは正しいか?」

僕が組織変革ワークショップやマネジャー研修などで参加者にする質問だが、多くの参加者は「正しい」と答える。その理由として、組織は「人」の集まりであり、その「人」の行為の体系であるからだ、という回答が多い。僕はさらに参加者に問う。「とすると、人は組織の一部分(部品)なのか?」と。

人は決して組織の一部分(部品)ではない。人は人であって組織の歯車ではない。これが僕の考えだ。ならば、組織の構成要素とは何か?人と組織の関係は何なのか?

社会学の領域の一つに『社会システム論』という考えがある。これは複雑な社会の全体性を包括的に捉えようとする野心的な社会学理論である。この社会システム論の代表的社会学者であるニクラス・ル―マンの理論をご紹介したい。

彼は言う。社会の構成要素は「コミュニケーション」だけである。つまり、人は社会の構成要素ではないと。

ル―マンのこの考えは、一般的に捉えられていた「社会の構成要素は、人や主体や行為である」とは全く異なる視点である。人は社会に参加し関わってはいるが、「社会とは何か」と問われれば、それは「コミュニケーションの連鎖」であるとル―マンは言い切る。

また、ル―マンは「コミュニケーション」をこう定義する。コミュニケーションは、何かを伝えるという「伝達行為」のことではない。彼は、複数の人の間で「相互調整的に創発する出来事」のことを「コミュニケーション」としている。言い換えると、コミュニケーションは、ある「情報」が何かの「意図」を持って「伝達」されたと、相手に「理解」された時に生じる。そして、「理解」された時に生じるものなので、そのコミュニケーションは一瞬の出来事、一瞬で終わってしまう出来事となる。しかし、この出来事は一瞬で終わってしまうが、相手にそれは移り(連鎖し)、相手によってさらに新しいコミュニケーションとして自己創出(オートポイエーシス)されていく。

つまり、ル―マンは、「コミュニケーション」を「情報」「意図」「伝達」「理解」が揃った時のみに創発する、一瞬しか存在し得ない出来事であるとし、この「コミュニケーションの連鎖」が「社会の構成要素」であるとしている。

このル―マンの考えに照らすと、企業社会、つまり企業組織の構成要素は、社員同士、社員と顧客間などにおける「コミュニケーションの連鎖」ということができる。

人は決して組織の一部分(部品)ではない。人は人であって組織の歯車ではない。組織の構成要素は、「コミュニケーション(の連鎖)」であり、人は組織から区別された、組織にとっての「環境」とも言える。ここで言う「区別する」とは、切断し孤立させることではない。敢えて「組織」と「人」を区別することで、「組織」とは区別された存在としての「人」を重視し、独立した「人」同士の関係性をあらためて論ずることの可能性も見出している。「人」は組織の構成要素ではないが、「組織」にとって必要不可欠な存在、つまり「環境」である。

ところで、経営学者チェスター・バーナードが、組織の成立のための条件としての3要素を次のように述べているのは興味深い。

・共通の「ゴール」(共通目的)

・協働意欲

・コミュニケーション の3つである。

バーナードの組織のこの3つの要素も、ル―マンの考え方を適応すれば次のように言換えることができるのではないだろうか?

つまり、組織の要素は、

・社員と経営の間で、会社の理念(価値観)、ビジョン-目標-戦略について繰り広げられるコミュニケーションの連鎖

・メンバーと上司、メンバー同士で「共に協力して仕事を進めよう!」と日常的に交わされるコミュニケーションの連鎖 であると。

ル―マンやバーナードの知見に照らすと、組織の変革や組織の活性化のためには、「人」自体ではなく、「コミュニケーションの連鎖」を活性化し、変革する必要がある。そのために、どのような「情報」を、どのような「意図」を持って、どのように「伝達」し、どのように相手に「理解」してもらうかを意識したコミュニケーションが求められる。特に、「共通のゴール」が明確になるような、かつ「協働の意欲」を喚起するような「情報」が、その「意図」とともに相手に「伝達」され、「理解」されることが重要となる。

経営者、経営幹部、ミドルマネジャー、リーダーには、組織の変革に向けて、「人」自体ではなく、「コミュニケーションの連鎖」を活性化し、変革することが求められている。

                                                                     Initiative&Solutions,Inc ・Proprietary & Confidential 2012

※参考文献

・『社会システム理論』井庭崇編著 慶應義塾大学出版会刊(2011)

・『ル―マンの社会理論』馬場靖雄著 勁草書房(2001)

・『新訳 経営者の役割』C・I・バーナード著 ダイヤモンド社刊(1968)

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≪プロフィール≫

渡邉 信光(わたなべ のぶみつ)

Initiative&Solutions,Inc (http://www.initiative-solutions.jp/)

代表取締役/組織・人財開発コンサルタント

 1962年生まれ。1986年中央大学法学部卒、株式会社リクルート入社。以来、HRD系ビジネスの営業、営業課長、マーケティングマネジャー(「7つの習慣」セミナープロモーション)、企画マネジャー(eラーニングビジネスの事業化)、コンサルタントなどを経て、2004年独立。

2004年に組織・人材開発系コンサルティング会社Initiative&Solutions,Inc を起業する。大手企業、成長企業の組織・人材開発領域でのサービスを展開。また、複数のコンサルティング会社の支援や「東レ経営研究所」特別研究員を兼務。