「ABC モデル:
-我々の意識は何処へ向かい、
どのように整理すればよいのだろうか」
2009/2/17
我々が市民として生活したり、会社に勤めたりするとき、いろいろな規則や習慣を背景にしながら行動します。現在我々が直面する変革にブレークスルーをもたらすためには、そのような日常の行動を取り巻く背景(仕組み)を考える必要があると考えるのですが、そのとき;
- 法律とか、規則だとか、我々が具体的に意識できる社会の制度や仕組み
- そのような制度や仕組みの背景となっている人々の意識(これを生態系と言っておきましょう)
の二種類の仕組みに分けて考えると、何をどうせねばならないか整理し易いと思います。
20世紀の日本を考えると、戦後、どうやって食べてゆくのかという課題の中で、日本は製造・輸出立国として食べてゆこうという国民的なコンセンサスがあり、そのような意識の中で社会制度が作られてきました。ところがそのような制度を基にしたシステムが立ち行かなくなり、初心に返って我々の意識にたちもどり、再度国民的なコンセンサスを考え直さねばならなくなったのではないでしょうか。そんな中から新しい意識を支援する社会の制度が出来てこなければならないし、新しい意識を阻む古い制度や仕組みは壊されなければなりません。
パソコンで使われるマウスの発明者であるダグラス・エンゲルバート博士は、このへんを昔から主張しておられるのですが、彼がこんな話しをしてくれたことがあります;
みんな自動車は何故走るのかと考えるとき、エンジンとかハンドルとかアクセルとか、自動車の中のことを考えるが、そうではなくて、石油を掘って、タンカーで運んできて、精製して、ガソリンスタンドや道路が作られているから走るので、砂漠の真ん中では自動車は走らないのだと考える必要がある
つまり、自動車という概念を考えるとき、その概念フレームの内側だけでなく、それを支える外側の仕組(生態系)も考えてゆく必要があるのだと、もう40年以上も前からいわれ続けてきました。彼自身は、その時、情報技術は、社会全体を考えながらより良い社会を作るために使ってもらうべく作られねばならないと言われていたのですが、今まさにそのような事を我々一般の市民や企業人も考えなくてはならない時代になりました。自動車を国とか産業界とか企業に置き換えれば、その中だけを見て、今までのように良いものを作っていればいいのだという時代は終わったのです。
それでは我々は日常、どのように物事をみてゆけば良いのでしょうか。例えば、ある学校で問題が起こったとします。その時、学校を取り巻く「外側の状況に目を向ける」方法があります。問題の所在が「先生」にあるように見えたとします。その場合、まず、その先生はどんな制度や仕組みのなかでそうなったのだろうか、と考えてみることです。そして、問題の所在が、先生を取り巻く社会の仕組みや制度にあると見えてくれば、何故そんな仕組みや制度が出来ているのだろうか、と考えるようになります。だんだんと、先生や学校の背後にある人々の意識の方へ原因を探求することです。この思考方法は、「一体全体あの先生は何を考えているのだ」、と先生の何処が悪いのかを探求して行く思考方法とはまったくベクトルを逆にしています。
これからの世界は、行動を取り巻く背景に対する視点を合わせ持たないと問題の本質が見えない、そして、それを解くには国民的な努力を必要とする時代なのだと思えます。
もしそのような認識を共有できるとすると、
- 現在我々の周りにある社会の制度をつくりあげた我々の意識を、どのような意識に変えれば良いのだろうか
- その意識変革が起こればどんなイメージの世界になるのだろうか
- その時情報産業はどうか変わってくるのだろうか
等が我々の関心事になると思いますが、それらは法律、規則、慣習やビジネスモデルといった社会の構造に組み込まれるための形式知を具現化するためではありません。研究会とか勉強会のよなところで新たに考え出されるアイディアが持続的に社会の流れの中で育ってゆくためには、上記の3つの意識の流れと関連付けておく必要があります。現状に問題意識を持って行動しようとしている人が、より力を発揮できるような環境(生態系)をつくるために、我々が持たねばならない説得力ある「意識」とはどんなものなのか、それをネットワーク上の会話を通して探ろうということです。その意識が他の人にも説得力を持つものであれば、それが伝搬して新しい社会の流れをつくるというモデルです。これは情報産業では良く知られている、前述のダグラス・エンゲルバート博士が40年以上前から主張していることで、そのようなネットワーク上のコミュニティーを NIC(Networked Improvement Comunity)といわれています。そしてそのコミュニティーのために必要となる意識改革のために提案されているのがABCモデルです。そのようなモデルの必要性が現実的になっているのは、もちろんインターネットの環境が出現して、社会のあり方が根本的に変わってきているからです。ABCモデルを簡単に要約すると、我々の行動(activity)を次のようにABCの3段階に分けて考えようとするものです;
- A activity: 現在ある仕組みの中での日常業務作業
- B activity: 現在ある制度の中での日常業務Aの改善
- C activity: 改善作業Bをもっとやりやすくするための制度の改善作業
ネット時代に対応した新しい社会を作るには、世界のレベル、国のレベル、企業のレベル、部のレベル、課のレベル等々、大きなところから小さなところまで入れ子構造でABCのモデルで人々が考え、それらが調和されることが必要ですが、そこに共通することは、自分の日常の立位置を一度離れて、一段上層からそれを眺める視点でものごとを考えるということです。高度成長期の日本の産業界はA・Bを極めてうまくやってきていて、QC運動などは世界から奇跡と思われていますが、それを可能にしていた国家や企業の「C」は、製造・輸出立国ということで固定されていました。そこでは、日常の作業は品質・効率が中心課題になり、会社はどうあるべきかというような「C」については高度成長の追い風で特にそれを取り出して考える必要がなかったのです。しかし、そのようにして出来た制度や仕組みが立ち行かなくなってきている今日、それ自体を一つの課題項目として取り出して再考し、新しい産業や組織の在り方を考えることが必要なのです。そのためには異なった立場の人の持つ考え方や制度のイメージを理解して共通項を見つけ出し、そこで見つけ出した新しい考え方(ベクトル)によって、各人が持つ現場である「A」や「B」の強化、そして真のネットワーク社会構築につながることが期待されてます。
BPIA の21世紀型情報システム研究会は、これから我々の向かう社会はどんなイメージなのか、そこに必要とされる情報システムはどんなものなのか、その使い方はどうならなければならないのか等々を実行に向けて模索していますが、このほど時を得て、企業の経営を考えているBPIAにそうした活動を受け入れていただきました。日本の新しい流れを作る推進役として発信してゆけるよう議論を深めたいと思います。

2008年冬、房総沖でヒラメ釣りに初挑戦。
<プロフィール>
山田 博英(やまだひろひで)株式会社ソフタス 顧問
1965年早稲田大学工学部電気通信学科卒。65年 東芝(当時・東京芝浦電気)入社。71年イリノイ大学コンピュータサイエンス修士過程卒。73年 日本CDC入社。1985年グールドエレクトロニックス・ジャパン入社。89年 日本サンマイクロシステムズ入社、98年アステック入社。2005年アールワークスに転籍、2008年9月同社を退職。同年10月より現職。
