レポート 例会

BPIA 例会【2020年度第1回】(2019/12/18)『BATHの企業戦略とデジタルチャイナのゆくえ』

【レポート】

  こんにちは。BPIA広報委員会の石田です。今回は1月18日(水)に日本オラクルさんのセミナールームで開催された今期一回目のBPIA例会についてレポートします。

 今回の例会では、株式会社伊藤忠総研 産業調査センター/主任研究員である趙瑋琳(WEILIN ZHAO)氏をお招きして、「BATHの企業戦略とデジタルチャイナの行方」というテーマでご講演いただきました。

 前期のBPIAでも中国のデジタル化についてテーマに挙げていますが、ご存じのとおり、中国では2006年から2020年にかけてのイノベーション国家の建設戦略が施行されています。中国のイノベーションには5つのキーワードがあり、「開放する中国」→「製造する中国」→「二元化する中国(都市部と農村部)」→「老いる中国(少子高齢化)」→「創新する中国(イノベーション)」と成長のフェーズを分けることができます。特に、2015年からデジタルエコノミーの発展が加速し、2018年には中国GDPの35%を占めるまでに成長しました。

 現在、5Gに代表されるようなデジタル基盤が米中に集中しており、ハイテク・デジタルの分野で米中が対立している状態にありますが、「米国デザイン+中国生産」のモデルはすでに限界をむかえており、米中ともに世界からイノベーションを取りつくしたのも確かで、今後の成長は「自己創出」という状態になっています。企業の取り組みは、デジタル技術の産業化(テクノロジー本位)と産業のデジタル化(サービス本位)のいずれか、もしく両方のデジタルトランスフォーメーションであり、特に「ABCD5G(AI、ブロックチェーン、クラウド、データ、5G)」(趙氏の造語)の活用がキーポイントになっています。

 中国のデジタルイノベーション全体の流れを共有した上で、趙氏は「BATHの企業戦略と展開」をご紹介されました。説明不要かと思いますが、「BATH」とは「バイドゥ」「アリババ」「テンセント」「ファーウェイ」。デジタルチャイナを牽引する4社であり、世界の企業の時価総額トップ10にテンセントとアリババの2社がランクインしています。(ちなみに米国の「GAFA」は4社ともトップ10入りしている)

 「バイドゥ」はBATHから脱落の危機にあります。それはバイドゥのサービス力が落ちてきているというよりも、競合サービスが出てきているためです。バイドゥが提供する動画配信サイト「愛奇芸」が広告モデルからコンテンツ課金モデル(定額制)にシフトしていることからは、中国人の消費マインドの変化が読み取れます。「ALL in AI」の戦略として、主に自動運転技術に投資をしています。

 「アリババ」は独自の経済圏を構築しています。「衣食住行(交通)」のすべてを網羅するサービスを自社で提供し、エコシステムの拡充を図っています。元々はEコマースの信用調査であった「アリペイ」はスマホ決済の代表格になりました、現在は、データ企業として「アリババ商業オペレーティングシステム」や「C2M(customer to manufacturer)」と呼ばれる、消費者ニーズから逆算して商品をつくる仕組みを提供しています。

 「テンセント」は多様なサービス展開。元々のビジネスである「微信(海外版はWechat)」を提供している他、「プラットフォーマー+エコシステム」として特にフィンテックに力を入れています。また近年の特徴としては、toCビジネスだけではなく、ビジネス向けソリューション(toB)で日本企業との連携を進めています。

 「ファーウェイ」は多国籍企業への成長を遂げています。ファーウェイは、通信機器メーカーとして地位を確立し、「農村から都市を包囲する」戦略を取ってきました。ファーウェイには「オオカミ文化」「マットレス文化」といった独特の企業文化があり、「5G覇者+5Gビジネス」に猛進しています。

 BATHの組織構造・企業文化についてもお話しいただきました。「アリババ」はパートナー制度を敷いており、パートナー36人のうち12人が女性です。R&D(研究開発)において、「テンセント」では新規ビジネスを興す際、3チームを同時に走らせる競争メカニズムを取っています。もっとも成果が上がりそうなところにリソースを集中させる流れです。BATH各社とも、有力な人材確保を高給でおこなう一方、厳しい評価制度「末位淘汰」を導入しています。

 外側からは「依然躍進中」に見える中国ですが、国内経済も明暗が分かれ「内憂外患」の状態にあるのが現実です。ただBATHを中心にデジタルイノベーションが加速しているのは事実。今後の課題としては、「次世代リーダーの育成」「プラットフォーマーの規制/エコシステムの利害」「テクノロジー活用/情報保護規制の動向」が挙げられます。また日中オープンイノベーションの可能性についても趙氏にお話しいただき、今後の可能性を議論することができました。

最後になりますが、趙様、会場をお貸しいただいた日本オラクルの宇木さん、例会担当の田村さん、BPIA事務局の川上さん、誠にありがとうございました。


【開催概要】

日時: 2019年12月18日(水)朝8:00〜9:30(受付開始 7:45〜)
場所: 日本オラクル株式会社
オラクル青山センター 13F 会議室
外苑前駅 4B出口直結
タイトル: BATHの企業戦略とデジタルチャイナのゆくえ
講師: 趙瑋琳(WEILIN ZHAO)氏
株式会社伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員
対象: BPIA会員限定
参加費: 3,000円(朝食代込。当日申し受けます)
進行: 田村俊和(BPIA理事 例会担当)
株式会社日経BP読者サービスセンター 代表取締役社長

※「例会」は、BPIA会長、会員経営者、又は外部経営者知見者を講師に招き、グローバル時代の経営を様々な視点で議論し、相互研鑽とビジネス交流を図るBPIA会員限定の勉強会となります。
 

◎講演概要

2018年に勃発した米中貿易摩擦は沈静化しないまま、対中赤字の問題より、ハイテク分野やデジタル分野におけるイノベーションの優位性を巡る争いという色彩が濃くなっています。
「数字中国(デジタルチャイナ)」をけん引してきたBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)は、中国国内では絶対のスケールと影響力を示しており、海外進出を含め、ビジネス領域のさらなる拡大を図ろうとしています。
対米関係の悪化に加えて、新興ハイテク企業からの挑戦にもさらされる中、これらテックジャイアントは今後どのような展開を目指しているのか。BATHの企業戦略と技術戦略を中心に説明し、デジタルイノベーションを大いに推し進める中国のゆくえを探ります。 
 

◎講師プロフィール

趙瑋琳 (WEILIN ZHAO) 氏
株式会社伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東工大院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早大商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。
情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書『BATHの企業戦略分析-バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。日刊工業新聞「グローバルの眼」、産経ビジネスアイ「高論卓説」、東洋経済オンラインに定期的に寄稿。