会員企業訪問

データ資産の価値を高め、情報社会の活性化、豊かな社会の実現への貢献を目指す

株式会社リアライズ 代表取締役社長 大西 浩史 氏(BPIA会員)

2011年1月19日

聞き手: 池邊 純一 氏 サステナブル・イノベーションズ代表取締役社長(BPIA会員)

第六回は、データマネジメントサービス事業を展開しているリアライズを 訪ねました。データマネジメントサービスとは、データの現状調査から改善計画などの方針策定、データ整備、運用定着化の実行までをサポートし、事業にデー タを活用できる形にするサービスです。代表取締役社長の大西浩史氏はNTTデータで購買の仕事に携わっていたときの経験から、「データマネジメントはビジ ネスになる」と思いつき、同社の社内ベンチャー・プロジェクトとして事業化、97年から同サービスを提供しています。今回、聞き手を務めてくれたのはサステナブル・イノベーションズ代表取締役社長の池邊純一氏。同社は格差のない心豊かに暮らせる社会を創る視点から経営をサポートするというコンサルティング会社です。データモデリングなどデータにまつわることに関心をもっていた池邊氏がリアライズの事業内容に興味を抱き、リアライズ訪問となりました。

■ 自分の困った体験からリアライズを起業

池邊氏: 2010年は貴社創立9周年でしたね。リーマンショック以降、日本は景気低迷に陥っています。IT業界も厳しいものがあるかと思うのですが、いかがでしょうか。

大西氏: 94年にNTTデータに入社し、購買部に配属されました。配属先は購買部と聞いて、「日本最大の SI会社に入ったのに、パンを売るのか」と最初はショックだったことを覚えています。当時はIT業界の黎明期。購買部の仕事は、必要とされる資材を仕入れ て管理すること。仕入れを抑えることができれば利益となります。そのための交渉業務は楽しいから進んでやるのですが、その傍らでやりたくなかったのがマス タデータのメンテナンスだったのです。取引があるごとに担当者が仕入先のデータを新規登録してしまうので、例えば仕入先の情報を調べようとすると、同じ会 社の情報が複数出てきて、どれが正しいものかわからなくなります。中にはすでに使われていない古い情報を見て、間違って入金するなどの問題も起きたりして いました。そのほかにも、例えば過去の仕入価格を参照して交渉しようと思っても、きちんとデータ化されておらず調べられないケースも多々ありました。「こ の仕事は業務の片手間でできる仕事ではない」と実感しました。しかもデータをハンドリングするにはそれなりのスキルも求められます。誰もができるものでは ありません。このように自分が困った経験から、こればビジネスになるのではないかと思い、入社3年目のときに社内ベンチャー制度に応募したんです。それが とんとん拍子に進み、97年より社内ベンチャー・プロジェクトとして、データマネジメントビジネスを開始したのです。その後、このビジネスを展開していく うち、ITが本当にビジネスに役立つためには、情報システムの中を流れる血液ともいえるデータがちゃんと活用可能な状態に維持されていないといけない。 データを通じてITという便利な道具を社会に役立てたいという強い気持ちから、2001年に大日本印刷やSAPから出資していただき、本格的に起業したのです。

■ 企業理念は「データ資産の付加価値を高め、情報社会の活性化に貢献します」

池邊氏: 貴社の企業理念や企業ビジョンにはなかなか興味深い二つのキーワードがありました。
一つは、企業理念の解説にある「ITをRealに活かせるものとし、情報社会の活性化、ひいては豊かな社会の実現に貢献していきます」の「豊かな社会の実 現に貢献」という文言。もう一つは企業ビジョンの解説にある「情報を中心とした新しい仕事をプロデュースし、お客様業務の効率化・高度化を提案し続けま す」の「新しい仕事をプロデュース」という文言です。企業理念や企業ビジョンは創業当時から掲げていらっしゃったのですか。

大西氏: 創業当初より、企業理念に書かれているような思いはありましたが、明文化されていませんでした。 そのため、企業の方向性と合わず、退職者が出ることもありました。そこで私が発案した文言を、半年ぐらいかけて社員全員で確認し、整理してできたのが今の 企業理念です。企業理念が明文化されたことで、事業も成長するようになりましたね。一日中データを正規化したりする泥臭い仕事にモチベーション高く携われ るのも、この企業理念に賛同する社員が集まってくれているからです。この5年間は辞職する社員もでていません。

池邊氏: それは、企業理念がエントリーマネジメント(企業と応募者が共通の目的・ビジョンをもって活動していけるかという価値観のすり合わせをするための仕組み)にもなっているように思われますが。

大西氏: データを扱う仕事には「情報を集約する」「情報を加工する」「情報を整理整頓する」「情報を分析 する」「情報を検証する」など様々あります。購買部時代、自分でも困っていたデータマネジメント業務にこの新しいサービスを提供することで、お客様の業務 の効率化に貢献し、さらには社会の活性化につながっていくのではないか。それを明文化したのが、これらの企業理念や企業ビジョンです。入社した社員から は、「嘘がない会社だね」と言われています。

■ データマネジメントに対するニーズの変遷

池邊氏: 起業した当初と今とでは社会はもちろんお客様の経営環境、経済環境も違います。その中でお客様のニーズはどのように変遷してきたのでしょう。

大西氏: 潮目が変わってきたのが、3~5年ぐらいの前からです。最初は私たちのビジネスはまったく理解さ れませんでした。情報システム部に持っていくと、これは自分たちの仕事じゃない、ユーザー部門の仕事だよと言われる。ユーザー部門に持っていっても、問題 意識はなく、「こんなことはできている」と言われる。実はデータは業務とシステムの真ん中にある宙に浮いた存在と思われているのです。例えばCIOの方も システムは見るが、データが正しく活用可能な状態でシステムに保存されているかどうかなんて気にもしなかったのです。

池邊氏: 2004年ごろ、Web2.0という言葉が話題となり、欧米を中心に検索エンジンが登場し、情報 の洪水が喧伝された。そうしたことが情報に対する興味を喚起したのでしょうか。また、内部通報制度の施行もあり、コンプライアンスに対するリスク管理の視 点から透明性を確保するために情報へのニーズが高まったということなのでしょうか。

大西氏: 潮目が変わる要因の第一は、制度や規制への対応、コンプライアンスの観点によるものです。例えば 2007年6月よりリーチ法(REACH:Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)が実施されました。これにより欧州に輸出する際にはその製品にどれだけ化学物質が含まれているか報告しないといけないことになったの です。資材管理システム、製造管理システム、販売管理システムとバラバラなシステムでは、原材料がどう遷移しているかは追えません。そのようなことも、 データマネジメントに関心を抱く契機になったと思います。
第二に経営者視点のデータ精度の向上が求められるようになったことが挙げられます。日本の市場が縮小しているで、既存のお客様の囲い込みや、クロスセリ ングやホワイトスペース分析で新たなお客様の居場所を探す能力が、企業の生死を分けると言っても過言ではないでしょう。
第三は企業統合・合併によるものです。企業の統合や合併などが起こると、当然、文化も生成プロセスも異なるシステムのデータの統合も必要になります。そ れにより業務プロセスを統合し、事業を全体最適な形で遂行できるようにすることが、買収シナジーの実現に不可欠だからです。
これらのことが、データマネジメントに関心が集まってきた主な理由だと思います。

池邊氏: データクレンジングということだけではなく、もう少し上位のコンサルから入っていかれるんですよね。

大西氏: 経営に情報を活用しようと高価なBIツールやデータウェアハウスなどを用意しても、データが信頼 できなければ(=ゴミを入れれば)データは使われません(=ゴミしか出てこない)。私たちはデータがどういう状態になっているかという現状調査をすること から始め、どういう風にデータを改善するか方針を策定し、ツールや専門スキルを駆使してデータクレンジングを行い、運用する方々の教育をしたりマニュアル を作成したり、データを活用可能な状態に保つことを根付かせるまでを支援しています。データを一度きれいにして安心するのではなく、継続的にデータの品質 を維持していくことが、経営上でデータに基づいた正しい意思決定を行うための必要条件になるのです。我々はそれに必要なデータマネジメントのプロセスを一 貫してサポートしています。

■ 現状データの分析や方針策定などにもビジネスが広がる

池邊氏: データマネジメントの枠組みを作っていくところまでビジネスの幅が広がったのは、どういうイノベーションがあったからでしょう。

大西氏: 創立当初は、データメンテナンスを請け負うことだけでした。そのうち、データメンテナンスがうま く回るようになると、お客様から「もっとこんな分析がしたい」という話が出てきたのです。そこで私たちの方も、「そういうことをやるのなら、上流の部分を 直さないといけない」ということから、現状データの調査やデータ運用ルール策定というコンサルティングビジネスに広がってきたのです。

池邊氏: それらの一連のサービスを提供できる人材も育てていかないといけないと思うのですが、そのあたりはどのようにしていらっしゃるのでしょう。

大西氏: その前にやるべきことがあります。実はデータマネジメントという仕事は、IT業界で定義されてい ないんです。例えばシステムエンジニアという職種であれば、どういう仕事をする人か定義されていますし、資格もちゃんとあります。ところがデータをクレン ジングしたり、あるべき姿に向けてデータの構成や管理をしたりという仕事に従事するデータエンジニアという職種は認知されていません。そういう職種をこの 業界に根付かせ、どの企業にとってもそういった人たちが必要だということを広めていきたいと思っています。
米国ではCIOならぬCDO(チーフデータオフィサー)という役職があります。権限を持ってデータの監視や改善に取り組むんです。日本でも同様に、デー タマネジメントという権能がこれからの企業にとって必要だということを、わかりやすい形で世の中に訴えかけていきたいなと思っています。何年かかるかわか りませんが、日本の企業・組織にとってデータマネジメントという役割やミッションが当たり前になるようにしていきたいですね。それができてはじめて、デー タエンジニアのキャリアや資格などがちゃんと整備されてくると思うんです。

池邊氏: とはいえ社内ではデータマネジメントの仕事に携わっている技術者を育成・評価しなければならないと思います。育成・評価制度はどうされているのですか。

大西氏: 当社では彼らを育成・評価するために、『アソシエイト・データエンジニア』であればこういうスキ ル、『シニア・データエンジニア』ならこういうスキルというように人材像を定義して、必要なスキル、経験、技能などをマッピングした人材育成制度を整備し ています。社会が求めるのであれば、それを提供していきたいとも思っている。
何のために顧客データの名寄せをするのか、何のためにデータ統合するのか。何のためをイメージできて、それに合わせたサービスを提供し、最終的にお客さまのビジネスに貢献できるような人材に育てるような取り組みを行っています。

池邊氏: 安心してキャリアアップしていくためには、経営理念や行動指針が一貫して変わらないということも大事ですよね。

大西氏: 理念や企業の方向性は創業当時からまったく変わっていません。その安心感はあると思います。また このような事業をほかにやっている会社がないというのも、私たちの強みでもあり弱みでもあります。まずはデータマネジメントという市場があることを確立さ せていくことも私たちのミッションです。市場が確立されれば、その市場をつくった会社である当社は最も強い存在。そこでさらに活躍の幅を広げていきたいと 思います。

池邊氏: そうするためにも、日本企業の文化を変えないといけないかもしれないですね。

大西氏: そうですね(笑)。システムと業務の間にあるデータが重要だという意識に変わるには、まだまだ時 間がかかるとは思いますが……。創業10年目を迎え、これから始まる10年は、データを適切に取り扱う技術者やデータマネジメント関連サービスが市民権を 得るようにしていくことが、我々の重要なミッションになると確信しています。我々の力だけではなく、そうした仲間を増やして、この大きな課題に臨んでいき たいと思います。

■ 「コーズ」という概念がイノベーションには欠かせない

池邊氏: 90年代の米国は、「強いアメリカ」復活に向け、ドル高誘導して利ザヤで稼ぐという戦略をとりま した。その結果、金融工学が発展し、サブプライム問題を引き起こすこととなり、製造業もすたれてしまった。日本は今、円高になり、国際的にみて相対的に高 く評価されています が、輸出が難しくなったモノづくり産業は苦しんでいます。つまり各企業、各 個人がどんなに経済合理性を追及しても、社会全体としての豊かさを求める仕 組みが変化しなければ、各企業、各個人は潤っていかないという状態にあると思います。

 こうした経験を経たことで、個人の価値観も変わってきました。潤うという言葉の意味も、裕福に暮らすから心豊かに暮らすという内面的な方向に変化してい ます。各個人には社会が抱える課題を解決しなければならないという想いが、自らの理想とする社会を実現しようとする想いとともに芽生えてくる。このひとり ひとりの抱く想いが「コーズ」です。信条に基づく社会的な動機と言い換えることもできます。
 一人一人の顧客のニーズは、その時々の状況に応じて変化します。企業はそのようなニーズの変化に合わせて、戦略を適応していくことが求められます。しか し適応した戦略は、めまぐるしく変化する昨今においては、すぐ陳腐化してしまう。今後はこのようにめまぐるしく変わるニーズを満たすために戦略を策定する のではなく、一人一人にある社会的課題に対する想いであるコーズに訴えかけるような戦略を策定していくことが重要になると考えています。
 ニーズはお客さま一人一人のコーズを実現する手段にすぎません。そのニーズに対する企業の戦略もまた、企業としてのコーズを実現するものです。お客さま が本当に求めているもの、お客さまのコーズに訴えかける戦略 を策定するには、インサイト(洞察)と将来に対するフォーサイト(先見の 明)がなければならないのです。
 社員はコーズを基に課題を発見し、「こうしたら良いのでは」と考える。そして新たなロジックを確立し、生産化、マーケティングして供給・販路を確立す る。そしてまた新たな問題を発掘し、考え、それを解決する方策を探す。そういうことができる組織になることが求められてくるのではないでしょうか。

大西氏: そのために一番大事なのは社員の自律化です。社員一人一人がお客さまの課題をとらえ、新しいビジ ネスを考えられる人材になってほしい。そのために、OFF-JTとOJTを複合させ、人材育成に取り組んでいます。たとえばOFF-JTに関しては、「こ ういうキャリアを目指したいので、この研修を受けたい」というのであれば、チャレンジさせています。それぐらい人材教育には注力しています。たとえ会社の 経営状況が悪くなっても、人材への投資は惜しまない。個人の成長はお客様への提供価値の向上、ひいては会社の成長にもつながっていくと考えているからで す。
またOJTという意味では、若手のうちから経験を積ませることを実践しています。昨今、金融分野に参入したのですが、それも若手に任せて経験を積ませています。権限移譲により、社員が自分で考えて行動できるようになって欲しい。

池邊氏: 人を育てるには、任せていくことも大事だと思います。以前、東京大田区にあるある町工場でも、新 製品を生み出すために、任せることで成功したという話がありました。もちろんその人個人の性格もあるかもしれないが、自律できる人であればどんどん任せて いく。そして大事なのは失敗しても責めないことでしょうね。

大西氏: 環境が人を作ると思います。当社でも社員の自律的な行動が新しいサービスに結実してきました。それを誘発するような「やらずに後悔するより、やって後悔しよう!」という姿勢を大事にしています。社員の力が会社の力になり、社員の成長が会社の成長に直結しているのですから。

池邊氏: 最後にBPIAに期待することを教えてください。

大西氏: 国や行政に対して情報発信をもっと積極的にしてほしいと思います。旧来からの縦割り組織をそのま ま引き摺った形で、行政機関ごと、個別手続ごとに全体最適とは程遠い形でシステム導入が進んできたことから、データ分散による課題を多く抱えているのは行 政なんです。例えば住所変更の手続き一つとっても、市役所で住民票の登録、警察で免許証の変更など数多くの書類を提出したり、それぞれの行政機関の窓口に 出向かなければなりません。行政サービスの顧客であるべきはずの国民や民間事業者の視点からいえば、各行政機関を横通ししたデータ連携を実現することで、 このような面倒な手続きが不要となり、行政サービスのコストももっともっとシェイプアップできると、私たちは考えています。これを実現する方法の重要な一 つが、データマネジメントなのです。BPIAではぜひ、国や経済を活性化するメッセージや提言をつくり、社会にインパクトを与えていくことにつながるよう な活動を期待しています。

(文・フリーランスライター 中村仁美)