会員企業訪問

サービス業界で働く人たちの働きやすさ向上に役立つツールを提供

ウィンワークス株式会社 代表取締役社長 渡邊 邦昭 氏(BPIA会員)

2010年2月9日

聞き手; 中村 仁美 氏 フリーランスライター

第三回は、ピープル・パフォーマンス・マネジメント(PPM)を実現するITソリューションの開発・提供を行うウィンワークス株式会社の 代表取締役社長・渡邊邦昭氏、取締役CTOの森庸輔氏を訪ねました。ウィンワークスが開発・提供する「WINWORKS One」および「Mrs.RIC」はサービス業界向けのPPMソリューション。これらのソリューションは「ハッピーに働こう」という渡邊社長のモットー を、サービス業界で実現するための製品だったのです。

■「人」をフローで管理する

聞き手: まずは渡邊社長がウィンワークスを設立した背景について教えてください。

渡邊氏: 私は新卒で日本アイ・ビー・エム入社。その後、ゼネラル・エレクトリックに転職、GEインダスト リーオートメーションの取締役社長、エレクトロニック・データシステムズの取締役副社長などを経験して、日本ディジタルイクイップメント代表取締役社長に 尽きます。1998年にはSCMソリューションを提供するi2テクノロジーズ・ジャパン、2000年に日本アリバの代表取締役社長に就任しました。 2002年にキャリアクエストクラブという人材能力開発および転職サービスを提供する会社の設立に携わりますが、それまでずっと携わってきたのが、“モ ノ”をコンピュータで管理するということでした。しかし社会はグローバル化や価値観の多様化などにより、これまでのモノづくり(第二次産業)からサービス (第三次産業)中心の経済へと変わりつつあります。つまり世の中の流れはモノからヒトへと移っているのです。
ではITソリューションがその社会の流れにきちんと対応できているのでしょうか。モノを管理するITツールは、確かに高度に発展してきました。在庫管理 というストックを管理するツールはもちろん、90年代にサプライチェーンソフトが登場したことで、フローでモノを管理することができるようになりました。
モノをフローで管理できるようになったことで、経営効率は大幅に向上します。例えばパソコンメーカーを例にとって説明しましょう。 Aというパソコンを つくる場合、Aがいつ、どこで、何台売れるかというデマンドを予測することから始まります。その予測に対して、いつ、どの部品をどのくらい持てばよいのか というようにモノをフローで管理していくからです。だからこそ在庫の削減や出荷までにかかる期間の短縮が実現したのです。
一方「ヒト」の管理手段として導入されているのが人事および給与システムです。人事システムで管理するのはヒトのスキルや経験の履歴です。給与システム で管理するのが、その履歴に応じてどのくらいのお金を支払うかという人的リソースにかかる費用です。いずれもストックで管理する方法です。ではヒトをフ ローで管理するメカニズムがあるかというとありません。これをつくって提供しようというのが、会社設立のきっかけとなりました。

聞き手: それを実現したソフトウエアがWINWORKS Oneというわけですね。

■「WINWORKS One」はお客様から頼まれて作った製品ではない

渡邊氏: 私たちはIT会社です。会社として何を商品として展開していけばよいかを考察することにしまし た。ソフトかハードか、技術を売るのか、顧客価値を売るのか。そういう4つの事象で捉えた結果、コストが下がる、売上が上がるなどの顧客価値を生むソフト ウエアとしてWINWORKS Oneの開発に至ったわけです。「WINWORKS One」とはクラウドで利用可能な最適化勤務シフト表を作成するためのソフトウエアです。お客様から「こういうものを作って欲しい」といわれて作ったもの ではなく、「絶対、こういうニーズがある」という自分たちの確信に基づいてつくったソフトなんです。

聞き手: 「Mrs.RIC」も「お客様からのニーズ」ではなく、確信に基づいて開発したソフトということですか。

渡邊氏: そうです。実は開発するために、当社の営業担当者を実際に某ファーストフード店のアルバイトとし てもぐりこませたこともあります(笑)。アルバイトの面接を受けて、2カ月間働いてもらい、現場ではどんなことが行われているか、経験してもらいました。 そこで学んだことを生かして開発したのが「Mrs. RIC」です。これはマネジャーとスタッフのコミュニケーションを支援するためのツールです。

聞き手: 具体的に「WINWORKS One」および「Mrs.RIC」でどんなことができるのか、紹介していただけますか。

渡邊氏: 例えば小売業や宿泊業、外食産業、医療施設などのサービスを価値として提供する業種・業界では、 早番、遅番などさまざまな勤務体系で、正社員や契約社員、パートタイムやアルバイトなどの条件の異なる職種の人たちが働いていたりすることが一般的です。 これら様々な働き方をする人たちを、勤務時間や勤務体系に合わせて配置させていくだけでも、非常に手間のかかる仕事です。しかもその人員配置も「開店から 2時間は10人、13時から19時までは20人、19時から閉店時間までは5人というように、ただ機械的に配置すればよいというものではないのです。

聞き手: どういうことでしょう。

渡邊氏: 例えば午前中に10人必要だといっても、新人を10人配置しても本来求められている10人分の業 務をこなせるわけではありません。また「AさんとBさんの相性は悪い」など人の組み合わせによっても、業務効率は変わります。さらには時間帯や曜日、月に よって繁閑の差もある。これらをすべて考慮して、スタッフを配置することがサービス提供の効率向上にもつながるだけではなく、さらには顧客満足度の向上に もつながるんです。

■ 人材のムダ・ムリ・ムラをなくす

聞き手: もう少し具体的に教えていただけますか。

渡邊氏: 私たちのソフトのファーストユーザーである某有名ブランド企業の例で説明しましょう。同社の ショップの入り口には、入退店者を数える計測装置が設置してあり、営業 時間ごとにどのくらいのお客さんが店舗内に滞留しているか数えることができるよう になっていました。同社では業務効率を向上させるため、営業時間ごとに配置されるスタッフ数が、実際に来店するお客様数にちゃんと合致しているか、 WINWORKS Oneでチェックしてみたのです。●月×日、開店から2時間ぐらいはお客様が少ないため、スタッフに余剰が生じていました。しかし午後に入り、お客様の数 も徐々に増えてきます。そしてとうとう午後2時には、店舗内にスタッフよりもお客様の方が多くなり、対応できない状態に陥ってしまっていたのです。その状 況は閉店時間間際まで続いていました。
午前中に投じた人材という資源はムダが生じているにもかかわらず、午後はスタ ッフが不足し、接客にムリが生じていたのです。接客すれば購入に至るかもしれないお客様を、接客できないために逃がしてしまっていた可能性があるわけで す。ビジネスの機会損失だけではありません。お客様の中にはスタッフにいろいろ相談したいという人もいるでしょう。しかしスタッフが不足している状況で は、そのようなお客様のニーズにも応えることもできません。結果としてお客様の満足度を下げることにつながりかねないのです。さらに従業員側にとっても、 このような来店者数と対応していないスタッフ配置は、モチベーションに大きく影響します。例えば来店者がほとんどいない時間帯に配置されたスタッフは、接 客業務にほとんどつけないため、やりがいが小さくなる。一方、午後の来客ピーク時に配置されたスタッフは、お客様の満足に応えられないことがストレスにな る。しかも先述したように、このような状況は日々変化(ムラ)します。それを考慮に入れ、先のような人材配置のムダ、ムリ、ムラをなすことができるのが、 当社の製品というわけです。

聞き手: 確かにそれを手作業でやれといわれると、大変な作業になりそうですね。

渡邊氏: シフト表作りにかかる制限事項は、それだけではないのです。「金曜日に年休を取りたい」「水曜日は早番にしてほしい」など各従業員の希望もありますからね。

森氏(写真左): 土日や休日のシフトに割当てられる日数も考慮したいとは思っているようですが、なかなか公平になっていないのが実情です。

聞き手: そうですよね。

■ 組み合わせは膨大。だから手作業では不可能

渡邊氏: あるファーストフード店のケースで説明しましょう。そのファーストフード店では80人のバイトが 働いており、その80人のシフトを考えるのは現場マネジャーの仕事となっています。シフト表づくりの舞台裏は次のようになっています。まずバイト一人ひと りに、希望時間帯を書いてもらうところから始まります。バイトは80人なので、80枚のシフト希望表がマネジャーのところに届くことになります。シフト枠 や就業ルール、公平性などを考慮して、それらの最適解だと思われる勤務表を作るわけです。簡単にはいかないのがわかるでしょう。

聞き手: 膨大な時間がかかりそうですね。

渡邊氏: 例えば1カ月30人のスタッフで10勤務種別があるとしましょう。どのくらいの組み合わせができると思いますか。

聞き手: かなりの組み合わせ数になることはわかるのですが……。

渡邊氏: 10の900乗です。手作業での計算なんて無理なんです。しかしWINWORKS Oneではこんなパズルを高速に解くアルゴリズムを開発しています。それがMulti-Phased Optimizationで、特許申請している当社の独自の技術なんです。WINWORKS Oneの開発に5年かかりました。さらにシフト表では時間帯ごとに目標人数があります。例えば計算で4.5という解となった場合、実際に必要な人数は5人 です。そういった整数計画もきちんとできるソフトなんですね。

そうやって苦労してシフト表を作っても、そのままスムーズにいつも運用されるというわけではありません。特に顕著なのが、スタッフの大半がアルバイ トで占められている場合。当日になって急に「今日は行けない」という連絡がくることは日常茶飯事です。そんなときでもお客様へのサービスレベルを下げるこ となく店舗を運営するには、その穴を埋める人材を確保する必要があります。とはいえ、当日になって80枚ものシフト希望表を見直し、「この人なら対応して くれそうだ」という人を見つけるのには時間がかかります。そういった課題を解決するのが、私たちが開発した「Mrs.RIC」です。

聞き手: 「Mrs.RIC」は今話題のTwitterの技術を活用しているんですよね。

■ スタッフとのやり取りはケータイで

渡邊氏: Mrs.RICは携帯電話(ケータイ)で勤務可能時間をヒアリングするなど、スタッフとのやり取 りをするコミュニケーションツールですが、そのやり取りをする技術のベースにTwitterを使っています。その理由は、コミュニケーションのための操作 が簡単にできるからです。

聞き手: 「Mrs.RIC」ではどんなことができるのでしょう

渡邊氏: Mrs.RICは、先述したとおりケータイをつかったスタッフとのやり取りを支援するサービスで す。スタッフの勤務可能時間をヒアリングし、その結果を自動的にとりまとめて表示してくれるというもの。時間帯別に必要な人員を登録しておくこともできる ので、マネジャーは必要人数と割り当て人数を比較しながら勤務シフトをつくることができるようになります。できあがった勤務シフトは、マウス操作一つでス タッフのケータイに通知することができるのです。例えば「急にスタッフが必要になった」というようなときでも、マウスを1回操作するだけ。応援募集のメッ セージが各スタッフのケータイに配信されます。スタッフも手馴れた操作でそのメッセージに回答できるというわけです。

聞き手: なるほど。これを使うと、先ほどのファーストフード店のように80枚もの紙をに らんでスタッフの配置を考えるなんてことは必要なくなりますね。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ClfzGvDdmpc[/youtube]

渡邊氏: そうなんです。実際、人間が手作業で最適なスタッフの配置を計画することなんて本当に無理な んです。

聞き手: Mrs.RICはどのくらいの期間をかけて開発されたのですか。

森氏: 開発にかかった期間は約半年です。その前にTwitterの技術的な部分を勉強しているので、それを含めるともう少し時間がかかっています。

渡邊氏: 当社の開発部隊は、実はポーランドにもあります。それと国内にある協力会社1社の計3社で、製品開発を行っています。

聞き手: なぜ、ポーランドに開発部隊を置いているのですか。やはりコストでのメリットがあるからですか?

渡邊氏: 日本と比べて安いというのもありますが、それだけではありません。当社は海外インターンシップ事 業を展開しているアイセック(AISEC)を支援し ており、毎年、海外からインターンシップ生を受け入れています。実はその中の一人にポーランドの学生がおり、彼が帰国し、仲間を募って開発会社を立ち上げ てくれたのが、ポーランドの協力会社というわけです。当社製品についての知識もあるので、安心して任せられる。会議もスカイプを使えば、顔を見て話すこと もできる。言語は英語、時差があるという点では異なりますが、私たちにとっては、国内に開発拠点を設けているのと変わらないんです。

森氏: 私自身、米国でコンピュータ・サイエンスのマスターを取得して、米国で仕事をしていた経験もあるので、英語でやり取りすることに障害はありません。

■ ビジネスの効率性とともに公平性や働きやすさの向上を実現

聞き手: WINWORKS OneやMrs.RICはシフト表作成を効率化するだけではなく、公平性や働きやすさを向上するという効果も得られるソフトだということがわかりました。

渡邊氏: 当社製品の導入効果は4つあります。第一に接客時間の増加および人件費の効率化。第二に公平性と 働きやすさの向上。第三がルールの透明化、そして第四がコンプライアンスの遵守。シフト表を作るソフトは世の中にいろいろあります。しかし本当に公平性や 働きやすさの向上までを考慮に入れているソフトはない。それができるのが当社製品だと自負しています。

聞き手: 働きやすさやモチベーション向上はBPIAが追求しているテーマの一つです。このソフトは、それを実現する道具といえるのではないでしょうか?

渡邊氏: まさに、そう考えています。それから、シフト表をつくっているのは、シフターと呼ばれる専門の人 材です。彼らの仕事はストレスがかかる。手作業ではどんなに考えて理想的だと思っても、誰もが満足するものはなかなかできない。だけどこのソフトでは、先 にあげた膨大な組み合わせを高速に処理して最適解を提示してくれます。シフト表は人というアナログとビジネスの効率化というデジタルが出会う場です。だか らこそ難しい。WINWORKSはそれらを融合させるユニークなソフトなんです。
すでにブランド小売やホテルサービス、介護・看護病院、携帯ショップ、コールセンターなどで導入事例があり、それぞれ勤務表作成工数の削減や接客効率の 向上、人件費の削減など効果が出ています。しかしまだまだこのソフトに関心を持ってもらえることは少ないです。

聞き手: よいこと尽くめのように感じますが、なぜ、関心を持ってもらいにくいのでしょうか。

渡邊氏: トップは現場がやることだと思っているんです。「できないのは店長の能力がないから。店長を替えればいい」という発想をもっ ている経営層がまだまだ多いんです。「今のままではダメだ。働き方を変えないと!」と思っている経営層にしか響か ないんです。

聞き手: しかし先のようにどんどん事例が出てくれば、今はまだ必要性を感じていない経営者の方も気づいてくるんじゃないでしょうか。「うちも働き方を変えないとダメだと」。

渡邊氏: そうですね。そういう意識を持ってもらい、サービスを提供する業態の働き方が変わるよう、頑張ります。

聞き手: 最後にBPIAに期待することをお聞かせいただけますか。

渡邊氏: BPIAのよさは、他の会社が行っている事例を少人数で詳細に聞けることです。それが大変、勉強になる。今のような形で事例の聞ける活動をどんどん続けていってほしいと思っています。

■ まとめ

考えてみれば分かりそうなことですが、ウィンワークスを取材してみて、シフト 表作りがいかに大変な業務であるか、改めて気づかされました。またそれを専門に作っている人がいることも初めて知りました。働き方というとついつい、オ フィスワーカーを思い浮かべてしまいがちですが、今の主要産業は第三次産業。シフト制で働いている人もたくさんいます。その彼らが幸せになる働き方を模索 していくことは、これからの日本を発展させていくために不可欠なことだと思います。渡邊社長もおっしゃっていたように、まだまだシフト表は現場マネジャー の仕事、という認識が強いようですが、同社ソフトの認知度が上がっていけば、きっとその業態の働き方が変わってくるはず。期待が高まります。

(2010/2/9)