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【2021年度レポート】 コロナ禍で見えてきた企業のリスクと対策


 新型コロナは社会に大きな影響をもたらしました。対面での活動が制限され、企業活動も変化を余儀なくされました。とくに、グローバル社会を前提に事業を展開してきた企業、そこに製品や部品を納入していた中小の企業、資金力の乏しい個人事業やスタートアップ企業などは大きな影響を受けました。これまで、数々の施策を施しても使われてこなかったテレワークやリモートツールは、急速に普及し、もはや必須となっています。こうした変化のいくつかは常態化していくと思われます。ここでは、急激な変化で見えてきた“企業が対処すべき課題”のいくつかについて考えてみます。


 


1.リモート環境の課題

 

 ビデオ会議やリモートで業務を実施する作業者の課題もあきらかになっています。Zoomなどのオンライン会議では、通常の対面会議よりも、精神的に疲れる、集中力が長続きしない、ざっくばらんに話ができない、鬱の状態になった、家庭内で落ち着いて画面に向かう場がない、家のIT環境が脆弱、・・・など、多くの課題が指摘されています。そこで、対面会議よりも時間を短く設定するケースが多いようです。


 リモート作業では自律的な働き方が求められますが、プロセスよりも成果が優先される傾向となり、仕事への満足度(働きがい)、評価の納得性、キャリアの形成、会社への帰属に対する不安感、同僚との連帯感の醸成など、制度面からの課題も報告されています。「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府、2020年6月)では、テレワークで不便な点として、“社内での気軽な相談報告が困難”、“取引先等とのやりとりが困難”が上位にあげられています。


 ビジネスの観点では、新規顧客の開拓がしにくいという意見が多く聞かれます。対面でのつながりによる縁を前提にした受注活動が主体の企業には、厳しい現実となっています。多種多様なアプローチを試行する必要にせまられています。一方で、世界、地方と都市の物理的距離がなくなるというメリットは、各方面に多大な影響を与えると思われます。



2.ジョブ型への移行での課題


 リモートでの業務が一般化するとともに、業務のプロセスが見えにくくなり、進捗状況の管理や成果の確認、自律型の仕事の進め方、キャリア形成の方法、会社への帰属感の希薄化など、業務遂行のうえでの課題が浮き彫りになりました。いくつかの企業では、出社率を制限し、“ジョブ型”に対応した働き方と人事制度を採用しようと計画しています。日本の多くの企業はこれまで職能型を採用し、多様な業務や不測の事態にも対応できる人材を育成してきました。目標管理制度を導入し、プロセスを重視した育成管理が重視されてきましたが、ジョブ型では、ジョブディスクリプション(職務記述書)の扱いが課題であり、記述内容、担当者と管理職との合意への道筋、評価の納得性などで試行錯誤しているケースが多いようです。担当者と管理職のコミュニケーションの充実、管理職のスキルアップが課題となり、管理職にとっても厳しい状況となります。一方で、人材育成や経営の安定性の観点からは、日本型雇用制度が有効との考え方もあり、職務型と職能型を融合した制度を模索するケースも多くなると思われます。いずれにせよ、ヒトの能力を最大限引き出せる制度であるべきです。新たにジョブ型を採用しようとする場合には、こうしたジョブ型の課題を十分認識したうえで、制度設計をすべきと思われます。


3.オフィスの位置づけの変更

 

 オフィスの位置づけも変化しています。フリーアドレスはすでに多くの企業が採用し、クラウドの普及で、どこでもオフィスの考え方が定着してきました。そこに、新型コロナ感染拡大の影響で、この傾向がさらに進み、出社率を低くし、オフィスを“コミュニケーションの場”、“価値創造の場”と位置づけるケースが多くみられるようになりました。また、心地よさ、リラックスの要素を追求する傾向も増しています。


 いくつかの企業では、リモートを常態化することで、オフィス面積の削減を企画しています。さらに、座席数を大幅に削減し、オフィスを業務推進の場ではなく、社員の雑談やリラックスの場と位置づける企業も現れています。今後、レイアウトの見直し、サテライトオフィスの導入などを実施する企業は増えていくと思われます。こうしたオフィス環境の変化に対し、その趣旨を徹底しないと、成果をあげられない可能性があります。


 出社して対面のほうが生産性や意思決定の早い仕事と、リモートでも生産性を落とすことなく実施できる仕事、RPAなどで自動化できる業務など、業務を再精査する必要があります。さらには、こうした見直しにより、企業価値をあげる活動などに投資することができます。



4.事業継続計画の見直しの必要性

 

 事業継続について、リスクの多様化に対応しなければなりません。これまで、事業継続計画(BCP)は、多くが震災を前提につくられてきましたが、今回のパンデミックのほか、温暖化などによる豪雨洪水、サイバーセキュリティ、各種のテロや犯罪と事故、重要インフラの停止などの要因を加えて改訂する必要があります。帝国データバンクによる「事業継続計画に対する企業の意識調査(2020 年)」でも、BCPの想定リスクが、1位は自然災害(71%、昨年も1位)ですが、2位は感染症(69%、昨年は25%で10位)、3位は取引先の倒産(39%、昨年は30%で8位)と大きく変化しています。


 パンデミックでは、世界全体がクローズされ、影響も長期間になるため、グローバルやインバウンドを前提に成長してきた企業では、物流が止まり製品の製造や販売できなくなることが最大のリスクとなります。製造業では、サプライチェーンの見直し、製造工程での自動化の促進が図られ、地産地消を推進するため工場の移転を計画している企業もあります。影響が長期化すれば、資金繰りに行き詰まり、事業を継続できないケースが増えてきます。日頃から、企業の信用力を高める姿勢が重要となります。


 コロナ以前のBCPは、メインオフィスに対策本部をつくり、そこに対応する幹部が参集することを前提に計画されるケースが多くありました。しかし、テレワーク実施時には、参集は困難であり、情報共有と指示の仕方を見直さなければなりません。


5.サイバーセキュリティ対策の強化

 

 テレワークではセキュリティへの対応が課題となります。社内と社外での境界を前提にした対策は意味がなくなります。そこで、ゼロトラスト(“誰も信用しない”性悪説に根差した対策アプローチ)の導入を検討する企業も増えています。また、使用している機器やバージョンの管理もおろそかにできません。


 セキュリティ事故や犯罪を認識してから、どのように対応するかが問題となります。時間がかかるほど、被害が大きくなる可能性があるのです。グローバルにオフィスを展開している企業では、一国で起こった事象は、すぐにすべてのオフィスに波及し、被害の収拾に多大な労力とコストが発生します。サプライチェーンのどこかから感染する可能性もあります。テレワークの環境では対応が遅くなる可能性があり、サイバーセキュリティへの対応は事業継続計画のなかで決めておく重要な要素となります。社会的責任もあり、損害額が億単位になることを肝に銘じるべきです。(しかし、一般に、セキュリティは経営上のコストと捉えられることもあり、自社にあったセキュリティの水準について、十分に検討をすることが必要と思われます。)


 最近、産業制御システムを標的にしたランサムウエアの攻撃と思われる生産工場の停止が話題になりました。また、メールを利用した攻撃も巧妙になっており、「Emotet」(エモテット)という、正規のメールへの返信を装う攻撃が多発し、パスワード付きZIPファイルにワードの感染マクロを忍ばせるなど、警戒を潜り抜ける仕組みとなっています。今後も新型の攻撃が常に現れるので、防御への意識高揚教育と随時の注意喚起が必要です。IPA(情報処理推進機構)などのセキュリティ情報に注意を払うことも重要です。


6.リスクの多様化への対応

 

 ネット社会では、SNSでの炎上やフェイク情報で大きな損失を被ることがあり、情報発信の内容や言葉遣いなどにも注意が必要です。こうした事案が発生した場合の対処についても設定しておくことが必要になります。パンデミックのような社会環境では、社員の社外での特異な行動に対してもネット上で注目され、炎上の原因になることがあり、日頃の教育も重要になると思われます。情報化が進むほど、想定外のリスクが発生する可能性が高くなります。リスク管理が、モチベーションやイノベーションの障壁になることは避けなければなりませんが、情報の扱いは今後とも難しい課題と思われます。    今回のコロナ禍は、一過性のものでなく、社会構造、ものの需給、企業のあり方や社会的責任、働き方などにも大きな影響を与える可能性が高いと思われます。変化が起これば、新たなリスクが発生します。リスク対応をコストと考えず、生産性向上と両立させながら、平時から取り組む姿勢が必要です。


企業活性化研究会   岡田 正志 (B&Tコンサル・オフィス)



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