【プラットフォーム・インタビュー】 
第4回 ウェルネスダイニング 長澤眞也社長

人事評価をしなければ、会社が元気になる
 ~~チームワークこそ「会社の宝」~~

 ウェルネスダイニングは、2011年に設立した宅配健康食の販売会社。社員21人のうち、男性は4人だけという、女性中心の会社。
 社長の長澤眞也氏のポリシーは「人事評価をしない」。それによってチームワークが強固になり、売り上げが急上昇している。
 常識を破る経営の実態と背景を聞いた。
 聞き手・坪田知己(京都工芸繊維大学特任教授)


 社員3人からのスタート

坪田 ウェルネスダイニングの設立の経緯を教えてください。

長澤 私は元々、西武百貨店に勤めていたのですが、退職して、「ウェルネス」という花とグルメの通信販売の会社を経営していました。その会社を買収したいという会社が現れ、赤字だった宅配栄養食の部門を切り離し、2011年6月に立ち上げたのが「ウェルネスダイニング」です。創業時は年間の売り上げが2000万円ほどで、社員は私を含め3人でした。



坪田 御社は「人事評価をしない」というポリシーを掲げていますが、そういう発想の原点は何ですか?

長澤 この会社を作った時、私は58歳でした。私の息子は知的障害を抱えているのです。38歳で最初の会社を作ったのも、そのことが原因でした。その時から、「仕事ができる」とかということよりもやさしさが大事だと考えていました。
 それと、最初の社員の出身地が岩手と茨城、つまり被災地で、彼らの友人が内定取り消しになったりしていたのです。だから「働けるのだったらどこにでも行きます」という必死さがあったのです。私は、「彼らを幸せにしなければならない」という気持ちを強くしました。
 また、買収された側は、近いうちに上場会社になるので、わが社の社員には「こっちに来てよかった」と言ってもらいたかったのです。
 2011年秋に新卒採用をやったのですが、「社員3人の新しい会社に応募する学生なんていない」と思っていたら、数人の応募があり、2人採用しました。「この人たちを不幸にしてはいけない」と思いました。



 雨の日にタオルを差し出した女子社員

長澤 息子の関係で、知的障害の人たちの仕事場に行くことがあるのですが、作業の能力に大きな差がある。でも、それに優劣を付けてはいけない。それを見ていて、自分の会社の社員に対しても「優劣を付けてはいけない」と思ったのです。
 前の会社の時に、営業担当で1億円の注文を取った男子社員がいました。同期の女子で、仕事にミスってばかりの人がいて、彼女はお茶出しとか簡単な仕事しかしていなかった。
 ところが、相手の会社に、「なぜわが社を選んだのですか」と聞いたところ、この案件が取れたのは、彼女の気働きでした。小雨の日に傘を持たずに会社に来た客先の部長に、「これをお使いください」と彼女が白いタオルを差し出したのです。それでこの部長がコンペで一番高価格だったにもかかわらず、わが社を選んでくれたのでした。
 彼女に対する私の印象は「ダメな社員」でしたが、彼女の気働きがなければ、この案件は取れなかったのです。その時、私は、「人事評価はできない」いう結論を得ました。
 人事評価をしないと全員がさぼってしまうと思われるかもしれませんが、わが社の場合は全員が「A」です。ボーナスを渡すと、「これに値するほど働けていません。もっと頑張ります」と言うのです。
 人事評価をしないことで生まれた最大の成果は、「チームでやる」という文化が根付いたことです。「お客様が評価してくれた」という経験をした社員は、それを自分だけのものにしないで、みんなに教える習慣ができています。



 全員協力で最高目標を達成し続ける

坪田 そういう風土は、ボーナスの支給方式から生まれたそうですね。

長澤 私たちのビジネスは、会員獲得数で利益が決まるのです。創業2年目から、営業利益の目標を決め、それをブレークダウンして、毎月の獲得目標を示しています。それは数段階あって、「ここまで行けば最高だね」という数字を「ドリームジャンボ」と言っています。
「ここまで行ったらボーナスはこうなる」という数字を示したら、社員たちが、「ドリームジャンボの数字だけでいい」と言い出し、全員で協力して達成してしまったのです。以来今日まで、ドリームジャンボが続き、ボーナスは大手企業の課長なみのレベルになっています。
 目標達成のために、社員同士の「教え合い」はとても活発です。


坪田 ということで、長澤さんとしては「理想の会社」を実現したわけですね。

長澤 しかし、この状態を維持することについては、非常に気を遣っています。意見が違うのは構わないのですが、「あの人とは話さない」は厳禁です。
 ボーナスは査定をしないので、入社が同じ時期なら同額です。しかし、「支給ゼロ」というのがあって、それは「会社の空気を悪くした」という人です。この6年間、幸い一人もそうなった人はいないのですが。
 そのために、社員旅行や食事の席も座席指定です。会社もフリーアドレスです。誰が隣に来るかわかりません。だから、誰が来ても親しく話をする習慣がついています。

坪田 社員の採用試験もユニークだと聞いていますが。

長澤 そうですね。例えば、机の端にわざと消しゴムのかすを置いておきます。手でサッと払う人は採用しません。ティッシュを取り出して、それに包んでゴミ箱に持っていく人はOKです。払う人は、部屋を掃除する人のことを考えていません。
 また、グループ面接では、その時話をしている学生でなく、聞いている学生が真剣に聞いているかどうかをチェックしています。試験の点数はさほど重視していません。大事なのは気配りです。

「今自分は何をすべきか」を考えて行動できる人を育てる

坪田 会社として今後の展望をどう考えていますか?

長澤 私は今63歳で、今後の5年を考えると、引退を視野に入れています。そこで、社員を3グループに分けて、「5年後にどんな会社にしたいか」を議論してもらいました。すると、「学校のようでありたい」とか、「社員が増えてもワンフロアで仕事をしたい」とか、今の会社のコミュニケーションの良さを大事にしたいという意見が多かったのです。
「学校のようでありたい」というのは、入社2年目になったら、新入社員にきちんと仕事のやり方を教えたいとか・・・です。
 私が一番重視していることは「公共」という概念です。例えば、電車の中でお年寄りに席を譲るというのは、義務でもないし、お金ももらえないし、評価されるわけでもない。でもそういう「公共の心」を持っている人を育てていくことが大事だと思うのです。
 人に命令されてやるのではなくて、「今自分は何をすべきか」を考えて行動できる人でなければなりません。

坪田 あらためて、「人を評価する」とは、どういうこととお考えですか?

長澤 人間は元々、同じだと思います。たまたま背の高い人や頭がいい人がいる。大事なことは、背の高い人は、高いところにあるものに対し、「取ってあげる」ということができる。これが「お前たちは取れないだろう」という態度をとると、チームワークは生まれません。
 評価というのは、どうしても評価者の感情が入る。大事なことは、「いいところを見てあげる」です。
 私が経営者として最も大事にしていることは、「採用を間違えない」ということです。私の考え方に賛同してくれる人を採用します。
「この社員はやる気がない」と考える場合に、私自身「やる気にさせられない自分がいる」と反省します。やる気をなくしていることが家族のことであっても、「会社としてできることはやるので、言ってほしい」といいます。とにかく「お前が悪い」という考え方をしないようにしています。

坪田 お話を伺うと、会社にとって大事なのは、利益を生むことより、風土を作ることだと感じますが。

長澤 経営者は、まずマーケットを見つけ、そこから利益を生む仕組みを考えるのが最初です。あとは人を活性化することだけです。社員が気持ちよかったら、会社は活性化します。そういう環境を作ることが、経営者の責務だと考えています。

  (2016年12月21日 インタビュー)

<傍白>
 長澤氏には、2015年に「目からウロコの新ビジネスモデル研究会」で出会った。とても面白かったので、2016年末に、「働く人の居場所」を研究している慶應義塾大学の大学院生とインタビューに伺った。
 長澤氏は身振り手振りを交え、朗らかに語ってくださったので、大変楽しいインタビューだった。
 私(坪田)は、自社(Loco共感編集部)を「世界一居心地のいい会社」にしたいと考えていて、「人事評価をしない」は、ウェルネスダイニングに学んで取り入れた。わが社もウェルネスダイニングのように、女性たちのチームワークは抜群だ。
 一般の企業は、人事評価は当然で、それによってやる気を引き出そうとしている。しかし、個別評価だと、情報を抱えたり、同僚の足を引っ張るという弊害が生まれる。「人事評価をしない」というポリシーは勇気のある決断だが、スジが通っている。
「人間尊重」「チームワーク重視」など、同社に学ぶことがたくさんある。その背後に、知的障害の息子さんを抱えた長澤氏の人生哲学がある。
 社長のポリシーが会社の風土を貫いている素晴らしい会社だと感じた。

◎ウェルネスダイニング株式会社 
2011年6月設立。糖尿病など食事制限のある人向けのお弁当を宅配する会社。お弁当の製造や宅配は外部に委託し、同社は健康相談などの顧客対応に特化している。年間6万人の利用者に対し180万食を販売。企業メッセージは『からだ想い、家族想いの あったか健康応援団』。社員21人、うち女性17人。新卒採用のみなので、平均年齢は25歳。人事評価がないほか、役職、階層もない。初年度は年間売上高1億円だったが、2016年度(2017年5月期)は約12億円。会社は、東京都江東区亀戸。資本金1000万円。